投資で判断を誤るとき、数字そのものが間違っていることは、実はあまりありません。たいていは、正しい数字を間違った範囲で見ています。

金曜、原油は下がりました。ところが市場が閉じたあとになって、サウジアラビアの施設が攻撃されたという発表が出ています。いま画面に表示されている原油価格は、この一件を一度も評価していません。数字は正確です。ただ、切り取られた時点が古い。

今日はこれと同じ形の話が3つ出てきます。BTCのETFフロー、原油、そしてAI向けの融資です。どれも、1日で見るか週で見るか、休場の前で見るか後で見るか、契約額で見るか返済の原資で見るかによって、意味が反対になります。

主要指標

指標確認値基準時点・出典
BTC81,138.50ドル/24時間比+0.04%9/20 6:00頃・CoinGlass
ETH2,634.29ドル/24時間比+0.26%9/20 6:00頃・CoinGlass
BTC先物OI/24時間清算560.04億ドル/5,011万ドル主要取引所集計、9/20 6:00頃・CoinGlass
ETH先物OI/24時間清算346.28億ドル/4,191万ドル主要取引所集計、9/20 6:00頃・CoinGlass
米BTC/ETH現物ETF9/18取引分:+4億3,300万ドル/+1億4,370万ドル9/18確定値・Farside BTC、Farside ETH
ステーブルコイン供給3,049.81億ドル/1日+0.18%/7日-0.10%9/20 6:00頃・DefiLlama
S&P500/Nasdaq/ダウ7,650.50(+0.17%)/26,522.55(+0.39%)/51,682.64(-0.18%)米9/18終値・Reuters配信
米10年金利/DXY(ドル指数)/ドル円5.00%/100.19/156.76円米9/18終盤・Reuters配信
Brent/WTI原油104.87ドル/100.30ドル米9/18清算値、1バレル・Reuters
日経平均/TOPIX65,018.95(+1.38%)/4,091.14(-0.07%)9/18終値・日経平均、TOPIX

株式、金利、為替、原油は、休場前の9月18日終値または終盤値です。9月19日のサウジ攻撃の情報は入っていません。ETFのフローも9月18日の米国取引分なので、9月20日朝のBTC価格とは同じ時点の情報ではありません。

資金調達率、現物の売買差、取引所の保有残高については、前回と同じ条件で比較できる最新値を確認できませんでした。今回の判断には使っていません。

BTCのETFは、1日で見ると強気、週で見るとゼロ

4.33億ドルは本物。ただし週前半の流出を埋め戻しただけ

9月18日の米BTC現物ETFは、4億3,300万ドルの純流入で確定しました。IBITの1億840万ドルに加えて、FBTCに3億1,070万ドル、BITBやARKBにも資金が入っています。1つの商品に偏ったのではなく、複数に広がった買いです。Farside

前日の1億5,950万ドルと合わせると、2日間で5億9,250万ドル。前日の時点では、価格が反発しても現物の買いがそれに伴っているかどうかが確認できていませんでした。そこには、はっきり答えが出たことになります。

ここまでなら強気の材料です。ところが、同じETFの9月14〜18日の週間合計を見ると、610万ドルの純流入しかありません。週の前半、15〜16日に7億4,630万ドルが出ていき、後半の買いがそれをほぼ埋め戻しただけです。5日間を通してみれば、資金はほとんど動いていません。

ETHはもっとはっきりしています。9月18日は1億4,370万ドルの流入に転じましたが、週間では1億4,060万ドルの流出です。Farside

同じETFフローという1つの指標が、1日で切ると「資金が戻った」、5日で切ると「何も戻っていない」になります。どちらも捏造ではありません。どちらを見たかの違いです。そしてニュースの見出しになるのは、たいてい1日のほうです。

価格が横ばいでOIが減ったことのほうが、実は重要

数字の派手さで言えばETFの4.33億ドルですが、反発の質を判断する材料としては、こちらのほうが効きます。

BTCは8万1,138ドルで、24時間ではほぼ横ばいです。先物のOI(未決済建玉)は、前日の同じ時間帯の563.86億ドルから560.04億ドルへ約0.7%減りました(OIと価格の組み合わせをどう読むかはこちらで整理しています)。

24時間の清算額も2億5,885万ドルから5,011万ドルへ縮んでいます。CoinGlass

前日はこれが逆でした。価格が反発すると同時に、OIが約9.9%増えていたのです。この形は「借りたお金で買っている人が増えただけ」の可能性を残します。持ち高だけが積み上がった相場は、少し下げただけで強制決済の連鎖(暗号資産の『清算』とは?)が始まるため、上がっていても脆い。

今回は価格を保ったまま持ち高が減りました。値動きの割に持ち高が増えていないということは、少なくとも前日の疑いは一部晴れたことになります。

一方で、ステーブルコインの供給は1日で0.18%増えたものの、7日間では0.10%のマイナスです。DefiLlama 実質は横ばいで、いつでも買いに回せる待機資金が中期で増えたとまでは言えません。ここでも、1日と7日で向きが違います。

原油の104ドルは、攻撃の前につけた値段

金曜の下落は、供給の回復ではなく外交への期待

金曜のBrent原油は104.87ドル、WTIは100.30ドルまで下げました。売り材料は、中国がイランに対してフーシ派の攻撃を抑えるよう働きかけたことと、代替の輸送路への期待です。Reuters

ここで注意したいのは、下がった理由が「実際に原油が流れ始めたから」ではないという点です。物理的な制約は何も解けていません。ホルムズ海峡を木曜に通過した商品船は4隻で、直近10日平均の約16隻を大きく下回っています。サウジの東西パイプラインも、3カ所のポンプ施設が損傷したまま復旧時期が決まっていません。

つまり金曜の原油安は、まだ起きていない外交の進展を先に価格へ入れた動きです。期待で下げた価格は、期待が外れれば元に戻ります。

被害の発表までは、原油もBTCも評価をやり直せない

そして市場が閉じたあと、フーシ派はリヤドの「重要施設」とヤンブーのAramco施設を、ミサイルとドローンで攻撃したと表明しました。サウジ主導の連合軍は攻撃を阻止したと説明していますが、被害の有無は明らかにしていません。Reuters

したがって現時点では、「供給がさらに減った」とも「無事だった」とも言えません。確認すべきなのは、Aramcoやサウジ当局による設備被害の発表、ヤンブーの積み出し状況、ホルムズ海峡の通航隻数です。この3つが出るまで、原油の適正な水準は誰にも計算できません。

そしてこれはBTCの話でもあります。原油が週明けに上がり、米10年金利も5%超で定着すれば、ETFの流入に支えられたBTCにもマクロの逆風が強まります。反対に被害がなく、船の通航とパイプラインの稼働が戻れば、有事を見込んで価格に上乗せされていた分(地政学プレミアム)は縮みます。BTCのチャートだけを見ていても、この分岐は見えません。

なお日本の現物株市場は9月21〜23日が祝日ですが、大阪取引所の株価指数先物と商品先物は3日とも休日取引の対象です。JPX 現物が止まっている間も、原油と海外市場の変化は先物に溜まっていきます。24日の寄り付きが大きく動いたとき、それを「今朝出てきた材料」と誤認しないことが大切です。3日分が一度に出るだけです。

AI向けの融資は、契約額ではなく返済原資で値段がついている

日本生命の2兆円が示す、選ばれる案件の条件

日本生命が、米国のデータセンター建設を含むインフラ融資へ2兆円を投じる計画だと、Nikkei Asiaが報じました。返済の原資を事業そのものが生む現金に置くプロジェクトファイナンスという手法を使い、米国案件では平均2%超の上乗せ金利(スプレッド)を見込むとされています。なおReutersは報道内容を独自に確認できておらず、日本生命のコメントも取れていません。Reuters

読み取れるのは、AIインフラへ向かうお金が止まっていないということです。ただし、生命保険会社が長期で貸す相手は「AI関連」という看板では決まりません。長期契約から実際に返済用の現金が出てくるかどうかで決まります。

Oracleの89セントが示す、選ばれない案件の条件

同じAIインフラでも、こちらは逆の評価を受けています。

Oracleが借り手となるニューメキシコ州のデータセンター「Project Jupiter」に関連する180億ドルの融資は、銀行間で額面1ドル当たり89〜91セントと評価されているとFinancial Timesが報じました。額面割れです。銀行が「満額では引き取れない」と判断しているということです。OracleなどはReutersの照会に回答していません。Reuters

差がついた理由は、AIの需要ではありません。この案件では、水や大気への影響をめぐる地域住民の反対、2.2GWのガスタービンへ燃料を送るパイプライン計画の停止、そしてOracleの信用格付けの低下が重なりました。格付けは投機的水準の一段上、つまりもう一段下がれば投資適格から外れる位置まで来ています。

需要があっても、電力がつながらなければ建物は動きません。動かなければ現金は出てきません。現金が出てこなければ債務は額面を割ります。IMFの資料でも、欧州のデータセンターはすでに域内電力の約3%を消費しており、AIの普及で送電網の負担が増すと指摘されています。Reuters 電力はもう、無限に前提にできる資源ではありません。

だから「AI関連銘柄」とひとくくりにして買うと、日本生命が選んだ側とOracleが置かれた側を、同じ値段で買うことになります。見るべきは契約額の大きさではなく、顧客は誰か、どんな条件で借りているか、電力はつながるか、稼働したあと現金になるかです。

この選別は米株全体でも起きています。9月18日までの1週間で、米株ファンドからは314.4億ドルが流出する一方、テクノロジー部門には7.75億ドルが流入しました。Reuters お金が消えたのではなく、選ばれた先に寄っています。

問いは「反発したか」から「それが続くか」へ移った

確認すべきことが1段進んだ

前日の時点では、BTCが約8万1,000ドルへ反発する一方で、9月18日のETFフローはまだ確定しておらず、先物OIは前日から約9.9%増えていました。現物の買いが伴わないまま借入だけが膨らんだ可能性を、否定できない状態です。

今回はETFの流入が確定し、週末のOIも小幅に減りました。反発の質は前日より改善しています。確認課題は「現物の買いが存在するのか」から、「その買いが週明けの原油と金利の上昇に耐えて続くのか」へ移りました。

ただし忘れてはいけないのは、サウジへの攻撃が株式・債券・原油のすべての市場が閉じたあとに起きているということです。いまBTCの価格が落ち着いて見えるのは、BTCが24時間動いているからであって、週明けのマクロの反応を織り込んだからではありません。24時間動く市場と、いま休んでいる市場を、同じ時点の情報として並べないでください。これも「切り取る範囲」の話です。

条件を決めておくと、値動きに振り回されない

  • 反発の質がさらに改善する条件:BTCが8万ドル台を保ち、OIが価格より速く増えないことです。9月21日の米国取引でBTCのETFへの流入が複数商品に続き、ETHの週間流出も縮めば、現物需要の広がりを評価できます。
  • 急反発後の整理と判断する条件:BTCが8万〜8万2,000ドル付近で動き、OIと清算が下がる一方、ETFが小幅な出入りにとどまることです。この場合は上昇の否定でも再加速でもなく、持ち高を整理している時間です。値動きを追うより、次に確定するフローを待つほうが合理的です。
  • 警戒を強める条件:BTCが8万ドルを割り、同時にOIが増えて、買い持ちの強制決済(ロング清算)が膨らむことです。Brent原油の上昇、米10年金利の5%超での定着、ドル高が重なれば、現物ETFの支えよりマクロの圧力が強いと判断できます。

見る順番は、サウジの被害発表と原油の物理フロー、休日取引を含む原油・株価指数先物、米10年金利とDXY、BTCのOIと清算、9月21日のETFフローです。米中は日本時間20日23時30分からAI安全保障と通商を協議する予定で、AI関連株にはここも確認材料になります。Reuters

今日の持ち帰り

  1. 数字を見たら、まず「どの範囲を切り取った数字か」を確かめてください。BTCのETFは1日で見れば4.33億ドルの流入、5日で見れば610万ドル。同じ指標で結論が反対になります。
  2. 反発の質は、価格ではなく持ち高で測れます。価格が上がって持ち高も増える相場は脆く、価格が保たれて持ち高が減る相場は整理が進んでいます。今回は後者でした。
  3. いま見えている原油価格は、休場後の攻撃を評価していません。週明けの確認順は、ヤンブーの積み出し、ホルムズ海峡の通航隻数、原油、米金利。BTCはそのあとで構いません。
  4. AI関連は、契約額ではなく返済原資で値段がついています。電力がつながるか、借入条件が重くないか。ここを見ないと、選ばれた案件と選ばれなかった案件を同じ値段で買うことになります。
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ABC Ledger 編集部
暗号資産・AI・米国株を、資金フローや需給、マクロ環境から分析するABC Ledger編集部です。ETFフロー、Funding Rate、Open Interest、現物CVDなどを組み合わせ、市場の背景を分かりやすく整理しています。

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