BTCが上がった朝、その買いは誰が入れたものでしょうか。

値段が上がると、誰かが強気で買い集めているのだと思いがちです。私自身、上がっているという理由だけで飛び乗り、高値をつかんだことが何度もあります。あとから振り返ると、そのとき足りなかったのは「誰が買っているのか」という確認でした。

10月10日朝、BTCは8.25万ドルへ反発しました。今日は、この反発の買い手を一人ずつ確かめていきます。結論を先に言うと、目立ったのは新しく入ってきた買い手ではなく、売っていた人の買い戻しでした。

値段を押し上げる買い手は、3種類いる

BTCの値段を押し上げる買いには、大きく分けて3つの顔があります。

1つ目は、現物を買って持つ人です。米国の現物ETF(BTCそのものを裏付けに持つ上場投資信託)を通じた買いが代表です。買ったあとも持ち続けるので、相場の下支えになります。

2つ目は、先物で新しく買いを建てる人です。値上がりを後押ししますが、借りたお金で膨らませた買いも多く、値下がりすると一斉に売りへ変わることがあります。

3つ目は、売っていた人の買い戻しです。下がると見て売っていた人が、損を止めるため、あるいは強制的に買い戻させられるときの買いです。値段は押し上げますが、買い戻しが終われば、その人はもう買い手ではありません。

同じ1%の上昇でも、どの買い手が多いかで、その上げが続くかどうかが変わります。1つ目が多ければ続きやすく、3つ目が中心なら、燃料が切れたところで止まりやすくなります。

1人目:現物ETFからは、まだ資金が抜けている

10月8日取引分の米BTC現物ETFは、2.441億ドルの純流出でした。うち約8割の1.971億ドルが、FBTC(フィデリティのBTC ETF)からです。前日の4.849億ドルに続き、2日間で7.29億ドルが抜けました。Farside

ETHも同じです。米ETH現物ETFは7,250万ドルの純流出で、9月29日から8営業日連続になりました。ほぼすべてが、ETHA(ブラックロックのETH ETF)の7,110万ドルです。Farside

ただ、10月8日の数字は、反発する前の日の取引です。反発のあとに現物の買い手が戻ってきたかどうかは、10月9日分に表れます。その数値は、締切時点でまだ空欄でした。今わかるのは、反発の直前まで、1人目の買い手は離れていく側だったということです。

2人目の買い手:先物で新しく買った人も、多くはなかった

先物で買いを建てる人が増えると、Funding(無期限先物で、買い手と売り手の間で定期的にやり取りされる調整金)はプラスに傾きます。買い手が多いほど、買い手が売り手に支払う側になるためです。

10月10日5:31(JST)時点で、Binance、Bybit、OKX、Coinbase、Hyperliquidの5取引所を建玉で加重したFundingは、8時間あたり約-0.0008%、年率換算で-0.84%でした。わずかにマイナスで、取引所の間でも方向が割れています。AlertaChart

少なくとも、先物で買いを膨らませた人たちが反発を引っ張った形ではありません。なお、5取引所の建玉(まだ決済されていない先物の持ち高の総額)は104.0億ドルです。ただ、前日に使った広い範囲の集計とは対象が違うため、増えたか減ったかは比べていません。

3人目の買い手:反発の局面では、売り方の買い戻しが出た

10月9日、BTCが83,400ドル近辺まで上がった場面では、ショート清算(売りの持ち高の強制決済)が確認されています。Newhedge

Fundingがマイナスということは、先物では売りの持ち高がやや多い状態です。売り方が多い相場では、値段が少し上がるだけで、損を抱えた売り方の買い戻しが連鎖しやすくなります。今回の戻りの一部は、この買い戻しが押し上げたものです。

買い戻しは、売り方が残っている間は続きます。ただ、清算が一巡すれば、そこで買いは止まります。1人目の現物の買い手が戻ってこない限り、この反発を支え続ける人はいません。

現物の買い手が急がない理由は、5%の利回りにある

では、BTCや株に向かっていないお金は、どこにいるのでしょうか。

LSEG Lipperの集計を報じたReutersによると、10月7日までの1週間で、米株ファンドから51.1億ドルが流出しました。一方、米債券ファンドには週間で過去最大の197.8億ドル、マネー・マーケット・ファンド(短期の債券などで運用する、現金に近いファンド)には684.9億ドルが流入しています。Reuters・ファンド資金

米10年債の利回りは、10月9日に5.24%でした。国債や現金に近いファンドで5%前後の利回りが確実に取れるなら、値動きの大きいものを急いで買う理由は薄くなります。現物の買い手が戻らないのは、BTCが嫌われているからというより、待っていても損をしにくい場所があるからです。

この集計は10月7日までのもので、9日の株価反発後の動きは含みません。実際、10月9日の米国株は、S&P 500が0.59%、Nasdaq総合が0.64%、ダウが0.83%上がりました。ただ、Brent原油も、ハリケーンで米メキシコ湾の原油生産の7割超が止まったことから、104.72ドルへ上げて終えています。金利と原油の重荷は、残ったままです。AP、Reuters・原油

一方で、お金がリスクから完全に逃げたわけでもありません。同じ集計では、テクノロジーのセクター別ファンドに45.3億ドルが入っています。買い手は消えたのではなく、相手を選んでいます。

AIでも、買い手は相手を選び始めた

その「選ぶ」動きがはっきり表れたのが、AIデータセンターのIPOです。

Nvidiaが出資する豪Firmusは、50億ドル規模のIPOを撤回し、私募(特定の投資家から資金を集める方法)での調達に切り替えます。Reutersは、需要が振るわなかったと伝えています。Reuters・Firmus

買い手が慎重になった理由は、数字を並べると見えてきます。想定した株式価値は306億ドルと、8月初めの105億ドルから約3倍でした。一方で、稼働中のデータセンターはメルボルンとシンガポールの2カ所だけで、負債は約300億ドルとされます。さらに、提携先のCDCデータセンターズの経営トップが、Firmusとの1.6GW規模のAIファクトリー計画はもう進んでいないと述べたと伝わりました。

AIという大きな物語があっても、買い手は稼働実績と負債と契約を見て、値段に納得できなければ手を出しません。BTCの現物の買い手が急がないのと、根っこは同じです。

まとめ:上がった日ほど、買い手の顔ぶれを見る

  1. BTCの反発で目立ったのは、売り方の買い戻しでした。現物ETFからは2日で7.29億ドルが抜け、先物で新しく買った人も多くありません。
  2. 買い戻しは値段を押し上げても、一巡すれば止まります。反発が続くかを決めるのは、現物を買って持つ人が戻るかどうかです。
  3. 現物の買い手が急がない背景には、5%前後の確実な利回りがあります。AIのIPOでも、買い手は実績と負債を見て相手を選んでいます。

週明けは、1人目の買い手が戻るかを見る

週末は、値段と先物の持ち高を見る

週末は米ETFが休場です。この間は、5取引所のFundingと建玉、そしてBTCが83,398ドル(直近24時間の高値)と81,571ドル(同安値)のどちらを抜けるかを見ます。

83,398ドルを上回ったとき、Fundingが急にプラスへ傾き、建玉だけが膨らむなら、2人目の買い手が借りたお金で追いかけている形です。上げは続いても、逆回転しやすくなります。Fundingが落ち着いたまま上がるなら、買い戻しのあとにも買い手が残っていると読めます。

81,571ドルを割り、前日安値の80,432ドルを再び試す場合は、建玉の動きで中身を分けます。Fundingがマイナスのまま建玉が増えれば新しい売り、建玉が減れば持ち高の整理です。

週明けは、現物ETFの資金を確かめる

いちばん大事なのは、10月9日分と週明けの米現物ETFです。流出が縮むか、流入に転じれば、1人目の買い手が戻り始めたことになり、反発の質は一段上がります。週明けも流出が続くなら、今回の反発は買い戻しだけで終わった可能性が高まります。

なお、12日(月)は米国の祝日で、債券市場は休場ですが、株式とETFは通常どおり取引されます。米10年債の利回りが5.24%からどう動くかは、13日以降に確かめます。

見るのは値段の上げ幅ではなく、その値段を誰が買ったかです。


参考:前回の朝刊からの変化

  • BTCは81,611ドルから82,509ドルへ反発し、前日安値の80,432ドルを割りませんでした。
  • BTC ETFの流出は4.849億ドルから2.441億ドルへ縮小しましたが、流出は続いています。
  • ETH ETFの流出は8営業日連続になりました。
  • 米国株は、Nasdaqが前日の-1.25%から+0.64%へ反発しました。

参考:主要指標

指標水準・変化基準時点・注記
BTC82,509ドル、24時間比 +1.05%10月10日6:13 JST付近。高値83,398ドル、安値81,571ドル(CoinGecko)
ETH2,481.61ドル、24時間比 +0.41%同時点。高値2,512.13ドル、安値2,469.70ドル(CoinGecko)
米BTC現物ETF-2.441億ドル10月8日取引分・確定。10月9日分は未確認(Farside)
米ETH現物ETF-7,250万ドル10月8日取引分・確定。8営業日連続流出(Farside)
BTC Funding年率換算 -0.84%10月10日5:31 JST、5取引所の建玉加重(AlertaChart)
BTC先物建玉104.0億ドル同じ5取引所、同時点。前日の広範囲集計とは比較不可
S&P 5007,811.54、+0.59%10月9日米国市場終値
Nasdaq総合27,366.17、+0.64%10月9日米国市場終値(AP)
米10年債利回り5.24%10月9日米国市場、前日終盤の5.22%から上昇
ドル指数DXY102.22、+0.08%10月9日終値
Brent原油104.72ドル、+0.42%10月9日清算値(Reuters)

暗号資産は24時間取引のため取得時点の値、株価指数と原油は10月9日の終値です。ETFの流出入は米国の取引日ベースです。Fundingと建玉は同じ5取引所の集計ですが、前日に掲載したDeFi RateやTalosとは対象範囲が違うため、水準を直接比べていません。

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ABC Ledger 編集部
暗号資産・AI・米国株を、資金フローや需給、マクロ環境から分析するABC Ledger編集部です。ETFフロー、Funding Rate、Open Interest、現物CVDなどを組み合わせ、市場の背景を分かりやすく整理しています。

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