PPI鈍化でS&P500は最高値、それでもBTCに資金が戻らない理由
7月の米生産者物価指数は前月比0.0%となり、市場予想の+0.2%を下回りました。9月の利上げ回避観測が強まり、S&P 500は最高値を更新しました。一方、BTCは6.3万ドル台で横ばいです。
最初は、BTCだけが好材料に反応できなかったように見えます。しかし数字を並べると、レバレッジの投げ売りではありません。Fundingは小幅プラス、清算額も限定的です。弱いのはデリバティブより現物で、米BTC現物ETFは最新確定日に6,110万ドル流出しました。
本稿では、米株とBTCで反応が分かれた理由、テザー監査の意味、AI需要の広がり、円介入後のリスクを整理します。
主要指標
| 指標 | 確認値 | 状況 |
| BTC | $63,442、24h +0.07% | PPI後も横ばい。現物買い不足 |
| ETH | $1,886.66、24h +0.26% | 小幅優位だが2,000ドル未回復 |
| Fear & Greed | 29(Fear) | 前日27から小幅改善 |
| BTC現物ETF | -$61.1M | 8月12日確定値。13日は未集計 |
| ETH現物ETF | +$7.4M | BTCと小さな方向差 |
| BTC Funding | +0.0078% | Binance・8時間値。過熱は限定的 |
| BTC OI | $46.66B | 前日から減少。参加者が縮小 |
| BTC清算 | $48.55M | 市場全体・24時間。崩壊規模ではない |
| Coinbase Premium | 取得不可 | 同一時刻の数値を推定しない |
| ステーブルコイン供給 | $300.79B、7d +0.12% | 日次-0.01%。待機資金は加速せず |
価格・デリバティブはCoinGlass、ETFはFarside、供給量はDefiLlamaを参照しました。定義の異なる数字は合算していません。
PPI鈍化で株価は最高値へ
表面のインフレは鈍化、内部には粘着性
米労働統計局によると、7月PPIは前月比0.0%、前年比4.7%でした。前月比は予想の+0.2%を下回り、前年比も6月の5.5%から鈍化しています。市場が織り込む9月据え置き確率は67.6%へ上昇しました。
一見すると、金利に弱い資産全体への追い風です。実際、S&P 500は0.65%高の7,798.99、Nasdaqは0.81%高の26,803.03となりました。
ただし、食品・エネルギー・貿易サービスを除く狭義のコア指数は前月比0.4%上昇しています。総合指数を押し下げたエネルギーは3.1%低下しましたが、7月末以降の原油反発は十分に反映されていません。今回のPPIは9月利上げを急ぐ理由を弱めましたが、インフレ終了を示したわけではありません。
株価最高値でも長期資金は安くない
米2年債利回りは4.14%、10年債は4.64%前後へ低下しました。一方、30年債入札は5.216%と2001年以来の高利回りです。
短期金利はFRBの見通しに反応しますが、長期金利には国債供給や将来のインフレも反映されます。株高でも資本コストはなお高水準です。
短期の利上げ回避はグロース株を支えますが、高い長期金利が続けば、借入と設備投資を必要とするAI企業には重荷です。
AI需要はモデル企業から製造業へ波及
SMICは利益が3倍超に
SMICの第2四半期利益は4.792億ドルとなり、前年の3倍超、アナリスト予想2.534億ドルの約1.9倍でした。売上は36%増の30億ドル超です。
今回の数字は、AI需要が中国の半導体製造工程にも届いたことを示します。利益の伸びが売上を上回り、稼働率や製品構成が収益へ寄与した可能性があります。
Lenovoは売上増と最終赤字が同居
Lenovoの売上は43%増の269.4億ドル、AI関連売上は60%増の93億ドルでした。AIサーバー案件も157%増の540億ドルです。
ところが、最終損益は6.09億ドルの赤字でした。主因はワラント再評価による17億ドルの非現金損失ですが、株主にとって「AI売上が伸びた」と「利益が残った」は別です。さらにメモリー不足で競合各社は製品価格を10〜30%引き上げています。
同日の株価もSanDiskが13.7%、Micronが4.2%上昇する一方、CoreWeaveは1.3%、Ciscoは8.4%下落しました。供給不足を価格転嫁できる企業と、設備投資を先に背負う企業の選別が進んでいます。
テザーの完全監査とBTCの現物不足
長年の弱点が一つ後退
テザーはKPMGによる完全な財務諸表監査を完了し、無限定適正意見を取得しました。従来の四半期attestationより対象は広く、貸借対照表、損益計算書、持分変動、キャッシュフロー、取引、評価、相手先、金地金の現物確認まで含まれます。2025年末の準備資産超過額は68.14億ドルでした。
私は、BTCの小幅な値動きより重要な材料と考えます。USDT発行体の完全監査は、市場全体の信用コストを下げる可能性があるからです。
ただし、監査取得と情報公開は同じではありません。次は財務諸表と注記の継続公開、2026年以降の監査を確認します。
制度改善は今日のBTC買いではない
BTCは6.34万ドル付近で横ばいです。FundingはBinanceの8時間値で+0.0078%、OIは466.6億ドル、24時間清算は4,855万ドルでした。レバレッジが極端に傾いた状態でも、大規模に崩れた状態でもありません。
現物側では、BTC ETFが最新確定日に6,110万ドル流出しました。ステーブルコイン供給は7日で0.12%増えていますが、日次では0.01%減少しています。PPIが下振れてもBTCが上がらなかった理由は、売りの強さより買い手の不足にあると考えます。
テザー監査は中長期の信用材料です。しかし短期価格を押し上げるには、ETF流入、ステーブルコイン供給の継続増加、Coinbase Premiumの改善が必要です。制度の前進と今日の現物需要を混ぜない方が、市場の反応を正確に読めます。
円介入後の次の焦点は日銀の方針
日米韓の協調介入によって円は約5%上昇しましたが、その後は再び1ドル159円台へ下落しました。市場が織り込む9月の日銀利上げ確率は、7月30日の24%から76%へ上昇しています。
日本の卸売物価は前年比7.2%、円建て輸入物価は29.1%上昇しました。金利差だけで円の全ては説明できませんが、介入だけで持続的な円買い需要を作るのも困難です。介入は政策対応までの時間を買ったと考えます。
市場はすでに利上げを大きく織り込みました。日銀が据え置けば失望から円安が再開し、利上げすれば円キャリー取引の巻き戻しが進む可能性があります。後者では、円だけでなくBTCや米国株からレバレッジ資金が引き揚げられる経路も意識しておきたいところです。
昨日までとの差分
昨日はCPI鈍化でもBTCが横ばいという反応差が中心でした。今日はPPIも0.0%となり、S&P 500は最高値を更新。それでもBTCが上がらず、ETFの6,110万ドル流出から現物買い不足という解釈が強まりました。
AIでは、昨日までのクラウド企業による巨額契約から、SMICの製造利益とLenovoのサーバー案件へ焦点が移りました。需要の存在だけでなく、どの工程が利益を残せるかを比較できる段階です。
暗号資産では、テザーの完全監査という新しい信用材料が加わりました。これは価格反発の直接材料というより、市場インフラの長年の弱点が一つ後退した変化です。
価格予想
強気シナリオ
BTCが64,300ドルを突破し、ETFが流入へ転じ、ステーブルコイン供給も増加を続ける場合です。BTCは65,500〜67,000ドル、ETHは1,980〜2,050ドルを想定します。米10年債が4.60%を割れば、Nasdaqは27,000〜27,400を試す余地があります。
メインシナリオ
米10年債が4.60〜4.75%に残り、ETFフローが小幅な流出入を繰り返す場合です。BTCは62,500〜64,500ドル、ETHは1,820〜1,930ドルの持ち合いを想定します。S&P 500は7,680〜7,900、ドル円は158〜160円が中心です。
弱気シナリオ
BTCが62,500ドルを割り、米10年債が4.80%を超えるか、日銀利上げ観測によるキャリー解消が強まる場合です。BTCは60,500〜61,800ドル、ETHは1,700〜1,760ドルを想定します。VIX上昇を伴えば、S&P 500は7,500〜7,650まで調整する可能性があります。
Take-home message
- PPI鈍化は米株を最高値へ押し上げましたが、BTCにはETFを通じた現物需要が戻っていません。
- テザーの完全監査は市場インフラの大きな前進ですが、中長期の信用改善と短期の価格形成は分けて考える必要があります。
- 次はBTC ETF、Coinbase Premium、米長期金利、日銀の9月利上げ観測を並べ、買い手が戻ったかを確認します。
この記事が参考になった方は、Xでも最新の市場メモを更新しています。
暗号資産・AI・米国株を、資金フローと需給の視点から読みたい方はぜひフォローしてください。
